機械工学科 応用数学C(ベクトル解析):【 講義のスタンス (数学的厳密性と直観的理解とのバランス)】 |
講義では,諸定理については必ず直観的な意味や例による説明を行なうが, 厳密な証明は行なわないことが多い. (証明しようとすると,どれも長い証明なので講義が証明だけで終ってし まう.それでも理解するのには十分な長さの時間ではないため学生は板 書を写すだけになる傾向が強い). 数学に強い興味のある学生に対しては講義で省略した証明は参考書のどこか らどこまでにあたるかを指示するので,自習して欲しい.自習で浮き彫りと なった不明点の質問は歓迎する. 数学の証明に関しては,普通の学生の理解速度は講義でぺらぺらと説明する速 度よりずっと遅いものである.他の学問と比較して,既知の概念との類推で理 解できる部分がはるかに少ないからである.途中でわからなくなったら最初に もどって読み直すことがはやみちのことも多いが,講義では時間の制約でそれ ができない。自分が確実に理解できるペースでねばり強く読んで自習すること が最も適切な数学の証明の勉強の仕方である. この「厳密な証明は本を見てもらう」という目的には下記の参考書(1)が適し ている。逆に、講義のスタンスに より近い 本としては、例えば、下記の参考 書(2)があげられる。ただ、(2)より講義のほうがやさしいはずなので、講義 を受けた上で(2)を読むのは無駄だと言えなくもない。むしろ講義と相補的 な内容の(1)のほうが役立つ場面は多いと思い、(1)を参考書の第一に挙げる ことにしている。 ところで、参考書(2)の前書きにある文章がまさにこの講義についての断わり 書きにもなっているので引用させてもらいます: 「内容の配列と理論の展開を、数学的厳密性に強く拘泥することなく、 直観的に・・・感得し・・・習熟することができるように配慮した。 ・・・数学の各分野に進まれようとする方々はあらてめて数学的に 厳密な理論展開にしたがって再考されるべきであると考えます。」 ガウスの発散定理の説明方針を例にとると、講義の説明は(一昨年からは)、 *1次元の場合について流速の微分の意味を考える *1次元の場合について微分積分学の基本定理を適用する *「各点で湧き出しを積分すれば境界からの流出量になる」という感覚的理解 *3次元だから3方向を足しあわせれせばよいという程度の論拠の高次元への拡張 という筋にしています。参考書(2)はもっと精密に説明していますが、本質は これと同じ系統です。一方、参考書(1)の証明はかなり印象の違うアプローチ です(各座標面に射影して証明します)。どうちがうのか興味が湧いたら是非自 分で読んでみてください。(2)の説明はどこが甘いのでしょうか? 【参考書】 (1) 矢野健太郎,石原繁著「解析学概論(新版)」(裳華房、1982年新版) の「IIベクトル解析」の章 (2) 石原繁著 「ベクトル解析」、(裳華房, 1985年) [その他の参考書の紹介]※注「本質は」
「湧き出し量を積分すると境界からの流出量になる」という理屈をまず理解してほしい
段階の学生にとっては、その理屈が本質で、斜め向きの境界の扱いは枝葉末節です。
枝葉末節の説明が長くなると、本質の理解に差し障ります。
湧き出し概念が理解できていると期待される段階の学生には、斜め向きの境界
の扱いの精密な議論が本質となります。ただし、これは工学部専門基礎教育
(2年生以下)より上の段階だと思います。2年生でそのレベルの学生も受講し
ていますが、ハイレベルの学生だけを見て講義を進めるのはご法度ですから、
「証明は参考書を見てください」と言うことになるのです。
なお,ここで「本質」と言っているのは,理解のひとつの段階から次の
段階へ進む過程における最も重要な要素のことで,「定理自体の本質」を学習者と
無関係に論じようとしているのではありません.