機械工学科 応用数学C(ベクトル解析):【参考書とその内容の紹介】 |
「IIベクトル解析」の章が講義とほぼ同じ範囲を扱っているので 使い勝手がよいであろう.この教科書は私が赴任する以前より 応用数学I〜IV の共通の参考書として推薦されていたものであり, 適切な良い教科書である.
矢野他著よりも理解しやすさに重点をシフトした説明になっている.この講義と 同じ説明方針であるが,講義より詳細で内容が豊富である.
この講義を始めたころ、研究室所蔵の蔵書・献本はみな手にとってみましたが、
そのときに見つけた1冊(献本)です.簡明で,まとまりがよく,適切な記述,という
印象です.たしか他の講義でも参考書に挙げられていたはずです.
ただし,この講義の内容の倍以上の事項が書かれているので,まずは講義で
触れる項目だけを選んで読むことが賢明です.
さて,見た目は簡潔にまとめてあるようでも,読んでみるとまとまりに欠けたり(※1),
勘違いの記述があったりする本がよくありますが,この本はそういう粗雑に作られた本(※2)ではありません.
また,それまでに刊行された本にはまだ書かれていなかったこと
(理解の秘訣のようなこと)を書いた本はよい本だと思いますが,口頭でする説
明とかWEBページへの書き込みと同じ調子で
くだくだと書き過ぎていることが多いという印象です。
推敲すれば半分の長さに縮まるが,
原稿枚数をかせぎたいという気持ちからそうしないのではと勘ぐりたくなることもあります.
一方,この本は「本として著すときは簡潔に書くべきだ」
という古来の規範が守れています.
この著者の方々が高名な数学者なのかどうか皆目知りませんので,
この本についてでなく,一般論として書きますが,
良い本でも著者が高名でないと推薦しにくいという面があります.
というのはリスクを伴うからです.
たとえば「二流の本を推薦するのは,そのようなやさしい本しか理解できないから」
と思われる恐れがあります(※3).
自信があまりないときは,そういうリスクを冒す余裕がなくなり,
高名な学者の書いた定番の本だけを紹介しておわりにしたくなります.
しかし,この科目にかぎらず,無名の良書はあるものです.
定番の本はもらさず紹介し,その上で無名の良書も発掘して追加して紹介するの
が,参考書紹介方法の理想でしょう.
青木他著と対照的な 饒舌な本です.物理工学科生対象の講義「ベクトル解析」
の教科書として,しばらくの間指定されていました.ベクトルや場の概念につ
いて,与えられた定義をそのまま(批判的検討を加えることなく)受容するので
なく,より深い観点から理解したいという希望をもつ学生に適しています.読
みやすいので,まず,図書館で借りて読んでみましょう.2週間以上は借りら
れませんので,そのときは生協で買いましょう.
まず借りることをすすめる理由は,少なからぬ学生が.概念の由来とか意味付けの深い詮索よりも,
なるべく簡潔に教えてもらうのを第一の要求としているようだからです.
そのタイプの要求にはこの本はあまり合致しません.
そこで,この本との相性をみるため,最初は借りて読んでみることをすすめるのです.
キーポイントシリーズから選ぶのなら,
高木著よりむしろこの本のほうが講義の副読本としては役立つような気がしま
す.というのは,講義を聞いてわからないのは,講義で仮定する基礎知識である偏微
分や多重積分の理解が十分でないためであることが多いと思われるからです.
(講義範囲のうち,ベクトルの代数の部分は講義の説明がどの本よりも一番やさ
しいはずだと思うので,講義をきいてわからない人が本を自習してわかるとは思いにくい.しかし,場の微分積分の部分は,多変数の微積の知識が乏し
い学生には,講義の説明では十分でないこともあるだろうと思います.)
そういう人には「言葉を尽くして説明する」とでもいうべきこのシリーズの方針が
うまく合致すると思います.
しかもベクトル解析の各種積分定理なども説明さ
れています.なぜなら多変数の微積の最良の題材がベクトル解析だからです.
私の講義のシラバスでも学生の目標として
「ベクトル解析の学習を通じて多変数の微分積分に慣れ親しむ」と書きましたが,
それと同趣旨なのでしょう.
なお,この著者とはわすかながら個人的に面識がありますが,ヨイショを書いて得す
るような関係にはありません.客観的と思う見解を正確に書きました.
他の本についても同じ態度で意見を書いています.
初歩的な事項から高度な内容まですべて平易に解説されている本です。
読者に前提として要求する知識の水準がしっかり定まっていて、その水準が
日本の大学生にはむしろ少し易しいくらいであるのが参考書としてかえって好ましく、
さらに出し惜しみなく平易に説明しようとする解説の方針をとっており、
アメリカの教科書の(私の持つ)イメージを具現化したような
本だと思っています。
第4版で内容が膨らんで1000ページを越える大著になりました。
そのうちベクトル解析にあたる部分は××ページくらいです。(××は後日正確に
数えてから記します。)
邦訳も出ており、××訳 「◯◯◯◯」 △△社 □□年 です。
他の講義のための参考書でもあるので、
いずれもう少し詳しい紹介文に書き直します。
※1「まとまりにかける記述」
項目はきれいにそれらしく並べても,論理のつなぎ目が滑らかになるよう
に仕上げをしていないと,読みにくい本になります.工夫しても論理のつなぎ
目がきれいに仕上がらないときは,項目を並べなおさなければなりません.こ
ういうことがきちんとできている本は,よい本だと私は思います.
※2「粗雑な作りの本」
大学教養課程の教科書は粗製乱造の傾向があると思います.
ワープロでの文書作成が普及したことで本を執筆しやすくなったのが主因ではないかと
思っていますが,教科書がスクラップ・アンド・ビルトでよいはずがありません.
1冊の教科書について,大勢が(ボランティア行為として)意見を寄せ,
その意見を参考にしつつ1人の著者が何度も改訂を
重ねて,年月をかけてよい教科書を作っていくというふうにできないものだろうか.
※3「二流の本しか理解できない」
「ほんとうにそんなふうに思われたりするのか」,あるいは,「思われて
もいいではないか」,という問に対する答はそれぞれの人生ごとに答にバリエー
ションがあるだろうと思いますが,大学に残って理論系の研究を続けるような
環境について言えば,難解な本の名前を口にすることで学生同士が角遂するよ
うな状況は日本でもしばらくいたフランスでも経験したので,きっとこの分野
で顕現しやすい人間の性質なのでしょう.そんなことはお互いの向上にとっ
てマイナスでしかないので率先して止めようと大学生のときに思い立ち,それ
以降,「思われてもいいではないか」が私の方針ですが,その方針の損得の収
支がはっきりしないので、強くは人には勧めません.