摩擦力について高校の物理で学ぶのは、静止摩擦と動摩擦のふたつです。
大学の力学でも、物理学者の教える理学的・理論的力学ではその2種類の
摩擦力だけを考慮するのが普通です。
ところが、工学的な対象への応用を強く意識した工学的・実用的力学の講義で
は、転がり摩擦(ころがりまさつ)を同じくらい重視しているようです。
参考例:「力学の基礎」
ここでは 滑り摩擦 と 転がり摩擦 の対比が議論の第一の対象になっています。
その理由は容易に想像できます。たとえば、ボール・ベアリングを使っていて
とても滑らかに回転できる軸受けでも回転はいずれ減衰しますが、その主因は
ボール・ベアリングの転がり摩擦であって、「転がり摩擦は考えないことにす
る」と言って済ましていては軸受けのなめらかさ程度を議論することができま
せん。
転がり摩擦は、剛体の変形やその内部で起きていることや、剛体が載って
押すことによる床の弾性・塑性変形、微小な滑りの存在、剛体と床と間の力の
複雑な働き方(「接点において接触面に垂直な抗力と平行な摩擦力が働く」と
いう描像には単純化しきれない場合)など、複雑な要因の結果として生じるも
のです。「転がり摩擦力」が剛体のこの点にこちら向きに働いていて、その力
によって転がり運動が減衰するというような単純な因果関係が描きにくいもの
なのです。応用への強い要求がなければ、このように現象論的側面が強すぎる
ものは、力学の例題では考慮しないですませたいようなものなのです。(「こ
の対象を扱うときは、力の働き方に関してこういう特別なルールをいれる」と
言ったうえで例題を解いてみせても、その結果として、力学の現象記述能力の
高さを示したのか、導入した特別なルールの正しさを示したのか、解くことの
意義がはっきりしないので、力学の例題に馴染まないのです。)したがって講
義では取り上げないつもりです。
ただ、調べる時間ができたら、転がり摩擦の生じるメカニズムについて図書館で
じっくりと調べ、まとめておきたいと思っています。
《転がり摩擦の諸原因(準備中)》
転がり摩擦について語るとき、もうひとつ別の問題があります。それは、
摩擦力の分類が分野によって違っているらしいことです。どのような状況(相
対運動のないとき、相対運動が滑りのない転がりのとき、相対運動が滑りによ
る並進の場合 など)で働く力をどの名称(静止摩擦 、 動摩擦、 転がり摩擦 、
滑り摩擦 など)で呼ぶのか(あるいは「どれとどれの組合せと考える」という
複雑な分類の仕方の場合もある)という点についての分類の違いがあると思われま
す。
参考例:「教科書を信じて疑わない人」
ゴルフの力学を詳しく考察されている方が、斜面を転がるボールの運動に
ついて力学の教科書の扱い(原康夫氏の教科書と同じ、私の講義とも同じ説明です)
に疑義を出しておられます。
私の印象では、この方と教科書著者の方とで議論がかみあわない原因のひとつに、
ことばの分類の違いがあるように思います。
なお、私個人としては、演習問題に取り組むより、こういう議論を読んで、議論のど
こが違うのか考えるほうが、力学の理解に役立つように思います。
分野による違いについても、時間があれば図書館で調べてまとめておきたいと
考えています。
《摩擦の分類(準備中)》