シンチレーティングファイバーを用いた素粒子飛跡検出器の開発
(This is a
Japanese version. The English version is in preparation.)
シンチレーティングファイバー(Scintillating Fiber、Sci-Fi)とは、荷電粒子が通過すると発光する性質をもった特殊なプラスチック(プラスチックシンチレーター)で出来た細い光ファイバーです。多数のSci-Fiが並べられた束の中を電荷を帯びた高エネルギーの素粒子が通過すると、粒子が通過した位置のSci-Fiだけが光るので、その光を検出することによって、粒子の通過位置を知ることが出来ます。Sci-Fiを用いた素粒子飛跡検出器を実用化するためには、Sci-Fiからの光を読み出すための受光素子の性能が重要な鍵となります。Sci-Fi1本の中を粒子が通過したとき、Sci-Fiの端に接続した受光素子に入射する光子の数は20~30個以下と非常に少ないため、超高感度な受光素子を用いないと検出することができません。また、読み出すべきSci-Fiの本数が数万本以上にもなるため、コンパクトな形状をしていることも重要な条件となります。
シンチレーティングファイバー(Sci-Fi)
これまでSci-Fi用の受光素子として、Image Intensifier(発表論文8)、多重アノード光電子増倍管(発表論文1,2,6,7)、Visible Light Photon Counter(VLPC)(発表論文3)などが実用化されています。VLPCは量子効率(受光面に入射した光子を光電効果によって電子に変換する際の変換効率)が80%程度と高く、またゲイン(入射した光子が光電効果によって叩き出した電子をさらに増殖させ、大きな出力信号として取り出す際の電子の増倍率)も20000以上と非常に大きいのですが、動作温度が7Kと非常な低温を要し、液体ヘリウムを使用する大規模な設備を必要とします。
目下我々はアバランシェフォトダイオード(APD)を用いたシンチレーティングファイバー素粒子飛跡検出器の開発に取り組んでいます。 APDは、量子効率が70%を上回り、かつコンパクトであるという条件を満たします。しかし、ゲインが低いためS/Nが悪くなることが難点です。このためAPDはSci-Fiの光検出には適さないと考えられていましたが、APDを冷却することによりこの欠点を克服できることが分かってきました。この際必要な低温とは、-40℃程度であり、VLPCのように大規模な冷却設備を必要としません(発表論文4,5,9,10,11,12)。APDの中では、Sci-Fiから到来した光子により生成される光電子がPN接合の空乏層の電場によって加速され、電子雪崩が起こり、信号が増幅されます。APDを冷却すると、まずPN接合点で価電子帯から伝導帯に拡散していく熱電子の数が減り、暗電流が減少します。さらに、空乏層内で二次電子の移動を阻害する結晶格子振動が弱まり、ゲインが増大します。すなわち、ゲインの増大と暗電流起源のショットノイズの減少とが同時に起こる結果、S/Nが向上することになるのです。
APD array SPL2368-16(浜松ホトニクス特注品) S5343とほぼ同特性 Single Channel APD: Advanced Photonix
197-70-72-520(左) と浜松ホトニクス S5343(右)
最近我々は、APDを極めて高いゲインで動作させることができるようになったマルチピクセルフォトンカウンター(MPPC)という受光素子を用いてSci-Fiの発光を検出する研究にも取り組んでいます。MPPCは、100万倍を超える高いゲインを持つため、Sci-Fiの微弱な光に対しても大きな出力信号が得られます。室温中では熱電子由来のノイズが若干多いですが、-10℃程度まで冷却することによって、ノイズをほぼ完璧に除去できることが分かってきました。
発表論文