人工ダイヤモンドを用いた素粒子飛跡検出器の研究

This is a Japanese version. The English version is in preparation.


 近年、高温高圧合成や気相合成による人工ダイヤモンドの製造技術が飛躍的に発展したことによって、高純度で大面積のダイヤモンドのウエハー(薄板)が製造できるようになり、その優れた力学的、電気的、熱的性質を生かして様々な分野で幅広く活用されるものと期待されています。高純度の人工ダイヤモンドは、素粒子物理学実験における高エネルギー荷電粒子の飛跡検出の素材としても注目されています。下図のように、ダイヤモンド・ウエハーの中を荷電粒子が通過すると、その飛跡に沿って炭素原子が電離し、多数の電離電子とホールが対生成されます。このとき、ウエハーの両面に電極板を蒸着し、両電極板間にバイアス電圧をかけておくと、電場に沿って電子やホールが移動していきます。つまり、荷電粒子通過の瞬間にダイヤモンドの中を電流が流れることになります。この電流を電気信号として検出することによって、荷電粒子が通過したことを知ることができます。

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ダイヤモンドは放射線による損傷をほとんど受けないことが知られています。このため、ダイヤモンドを用いた検出器は、既存の検出器では耐えられないような放射線量の多い場所で活躍するものと期待されています。

 素粒子実験では通常、単に荷電粒子が飛来したことだけを検出するのではなく、粒子が通過した位置を精度よく測定しなければなりません。下図のように、ダイヤモンドの両面に蒸着する電極板を、フォト・リソグラフの手法を駆使して数十ミクロン程度のステップで細く分割しておくと、粒子が通過した位置の電極板のみ信号を発するので、その小さい電極板のサイズに応じた精度で粒子の通過位置を測定することができます。

 

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 ダイヤモンドの結晶中を移動する電子やホールは、結晶中に混入している不純物や格子欠陥にぶつかると吸収され、消滅してしまいます。このため、素材となるダイヤモンドの純度が重要な鍵となります。

 

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左から、①高温高圧合成ダイヤ・タイプⅡa、②同・タイプⅠb、③CVDダイヤ

 

参考文献

  1. J.Conway et al., "The Status of Diamond Detectors and a Proposal for R&D for CDF Beyond Run II", CDF Note, CDF/DOC/TRACKING/PUBLIC/4233, July 10, 1997