以下は latex source file をそのまま表示したものです。 なお、この文書には図1、図2の2葉の図が言及されていますが、 これらの図に対応するファイルは準備できていません。
% yitp98a.tex : 98/2/20,23,24,25
% For proceedigs of a work shop held at Yukawa inst. for theor. phys. (YITP)
% during Jan 19-21, 1998
%
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\begin{document}
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% \pagestyle{empty}

\begin{center}
{\Large
中性子過剰核での対相関
}
\end{center}

% \vspace{\baselineskip}

\begin{flushright}
田嶋 直樹 (東大・院総合文化)
\end{flushright}

% \vspace{\baselineskip}

\mysection{1. 序}

中性子過剰核では、連続状態が中性子対相関に及ぼす影響が重要である。これ
らの核では、中性子のフェルミ準位が高い(0に近い)ため、対散乱過程によっ
て中性子クーパー対が正エネルギーの軌道へ励起されやすい。正エネルギー状
態は(連続スペクトルなので厳密な表現ではないが)状態密度が高く、また、そ
の波動関数は核子間力が抑制(quench)されない低核子密度域に延びる傾向があ
る。したがって、正エネルギー状態は対相関に大きく寄与するはずである。こ
の機構によるドリップ線近傍核における対相関強度の増大は、中性子ドリップ
線の位置を数核子分も移動させうるほど強い影響を持つと予想されている
\cite{DNW96}。

このような対相関チャンネルでの連続状態と束縛状態との結合を平均場近似の
枠組内で正攻法で取り扱うには、平均場と対相関場とを同等に扱う
Hartree-Fock-Bogoliubov(HFB)法\cite{DFT84}を用いる必要がある。しかし、
HFB法は、密度行列を求めるのに膨大な量の計算が必要だという困難を持つ。
その原因は、フェルミ準位をλ ($<0$) として$-$λ以上の励起エネルギーを
持つ準粒子状態が、その性格が粒子的であるか空孔的であるかを問わず、連続
スペクトルをなすことである。本論文では有限体積の空洞(cavity)によって波
動関数を規格化する場合を考えるが、十分な精度の解を得るには空洞の体積を
原子核の体積より1〜3桁大きくとる必要があるため、和をとるべき一準粒子
状態が1〜3桁多くなるという形で困難が現れる。原子核の平均場理論の分野
では、現在、その困難を克服するHFB方程式の効率的な解法が強く求められて
いる。

なお、HFB方程式を解くには、切断された(truncated)調和振動子基底による表
現での行列の固有値問題に帰着させる方法\cite{DG80}が最も広く用いられる。
この方法の利点は、状態数が原子核の体積に比例し空洞の体積には関係しない
ため、正エネルギー状態を含めても考慮すべき状態数が比較的少数であり、計
算量に関する困難が生じないことである。逆に不利な点は、ガウス関数のよう
に局在性の強い基底による展開では、緩く束縛した核の特徴である、励起エネ
ルギーの小さい準粒子の波動関数(の占拠成分)が遠方まで広がるという状況を
正確に記述することが実際上不可能なことである。後者の問題点のために、中
性子過剰核の記述には、調和振動子基底を用いる方法は不適切であり、座標表
示での解法が必要となる。

\mysection{2. 二基底法}

座標表示での効率的なHFB方程式の解法として、我々は、まず、「二基底法」
を検討した。この方法は、Hartree-Fock(HF)解の一粒子状態で基底を張り行列
操作によってHFB方程式を解くというもので、参考文献
\cite{GBD94,THF96,TFH97}によって、(変形核を扱える座標表示である)3次元
正方メッシュ表現\cite{BFH85}の場合に対して導入されたものである。我々は、
この方法によって得られる解の精度を調べるために、一体ポテンシャルの球対
称性を仮定する HFコードおよび二基底法 HFBコードを作成した。このように
球対称性の仮定を措くと、波動関数のうち数値的に求める必要がある部分は動
径成分だけになるので、3次元正方メッシュ表現と比較して計算量が激減し、
対相関力のカット・オフを非常に高い値にまで自由に設定して計算することが
できるようになる。このように高いカット・オフを使用することは3次元正方
メッシュ表現による計算では不可能である。なお、精度を検討するにはコード
を熟知している必要があるためコーディングは全く新規に行った。

我々は、このコードを用いた計算結果から、HF一体状態でHFB一準粒子状態を
展開することは効率的ではないという結論を得た。このことは、直観的には、
正エネルギーのHF一体状態が空洞全体に広がっているのに対し、HFB一準粒子
状態の占拠成分波動関数は原子核の周りに局在していることから理解されよう。
具体的には、正エネルギーのHF一体状態の状態密度の高さゆえ、二基底法では
カット・オフが低い値にしか設定できず、不十分な広さのスペースしか対相関
に取り入れられないことが問題になる。このように対相関スペースが狭いと、
核子密度の特に裾野部分が不正確になり、図\ref{fig:ripples}に示したよう
に、カット・オフ・エネルギーに対応する波数をもつ波が箱全体に広がる現象
が見られる。これはカット・オフの低さに起因する虚偽の状況であり、正確な
解では、裾野は指数関数的に減衰し、その厚み定数はカット・オフには関係せ
ずフェルミ準位のみで決定されるはずである\cite{DNW96}。

%---------- figure 1 --- begin ------------------------
\begin{figure}[hbt]           % -*- psfig -*-
\vspace*{7cm}
\caption{二基底HFB法による$(Z,N)=(38,68)$核の核子密度の動径分布の
カット・オフ・エネルギー依存性。
\label{fig:ripples}}
\end{figure}
%---------- figure 1 --- end --------------------------
%

なお、我々は相互作用として密度依存接触力を使用した。原子核を有効相互作
用による平均場近似で扱う場合、平均場を記述するための相互作用としては、
通常、Skyrme力のような運動量依存性を含んだ相互作用やGogny力のような有
限レンジ力を用いるが、対相関力としてはそれらよりも単純化された単なる接
触力や密度依存接触力を用いることが今のところ多い。したがって、対相関の
記述能力の検討という本論文の目的は、密度依存接触力を用いれば十分に達せ
られていると考える。

なお、論文\cite{TOT94}が核物質について議論している「対相関相互作用に運
動量依存性を取り入れることでカット・オフ依存性を極小化できる可能性」は、
HFB法の今後の発展において大きな意義を持つと期待される。ちなみに、今後、
相互作用を運動量依存性を持つものに変更しても、本論文で扱っているHFBの
解法に本質的な修正は必要ない。

\newpage

\mysection{3. 正準基底法}

次に我々は正準基底による解法を研究した。
HFB解は、Bogoliubov準粒子の基底を用いれば、
%
\begin{eqnarray}
|\Psi \rangle & = & \prod_{i=1}^{\# {\rm basis}} b_i | 0 \rangle,
\label{eq:hfbpsi}\\
b_i & = & \sum_{s} \int d \vec{r} \left\{
\phi_i^{\ast} (\vec{r},s) \; a_{\vec{r}s} +
\varphi_i (\vec{r},s) \; a^{\dagger}_{\vec{r}s} \right\}
\;\;\; \mbox{ : 準粒子状態}, \label{eq:hfbqp}
\end{eqnarray}
%
の様に表現される。ここで、「\#basis」は波動関数を表現するために採用し
た基底関数の数であり、3次元正方メッシュ表現ではメッシュ点の数(スピン
軌道力のある場合はその4倍)に等しく、典型的には$10^4$-$10^5$である。

方程式(\ref{eq:hfbpsi})の表す状態は、Bloch-Messiah定理により、
次のようにBCS型に表現することもできる。
%
\begin{eqnarray}
|\Psi \rangle & = & \prod_{i=1}^{\# {\rm basis}}
\left( u_i + v_i \; a^{\dagger}_{i} \; a^{\dagger}_{\bar{\imath}} \right)
| 0 \rangle, \label{eq:hfbnpsi}\\
a^{\dagger}_i & = & \sum_{s} \int d \vec{r} \; \psi_{i} (\vec{r},s) \;
a^{\dagger}_{\vec{r}s}
\;\;\; \mbox{ : 正準基底}. \label{eq:hfbna}
\end{eqnarray}
%
偶々核の基底状態では時間反転対称性のため
$\psi_{\bar{\imath}}$は$\psi_{i}$を時間反転操作したものになる。

正準基底によるHFB方程式の解法とは、正準基底(\ref{eq:hfbna})の波動関数
$\{ \psi_i \}$を変分させることで、BCS型状態(\ref{eq:hfbnpsi})をHFB解へ
と収束させようとするアプローチである。この解法は、論文\cite{RBR97}で球
対称性を仮定する場合について初めて導入された。論文\cite{RBR97}では、こ
の解法の利点を、扱う波動関数の数が半減する(準粒子基底では占拠振幅と非
占拠振幅の2成分の波動関数が必要であるが、正準基底では通常の一成分の波
動関数でよい)ことだとしている。

しかし、我々は、正準基底による解法には、それよりも遥かに大きい効用があ
ると期待する。即ち、準粒子状態を記述する二成分の波動関数($\phi_i$と
$\varphi_i$)は励起エネルギーの絶対値が$-\lambda$を越える場合にはどちら
か一方の成分が空洞全体に広がっているが、正準基底の波動関数 $\psi_i$ は
全て原子核の近傍に局在している。ところが、カット・オフをつければ、波動
関数の直交性のため、原子核の近傍には原子核の体積に比例した数の状態しか
存在できないはずである。これらのことから(\ref{eq:hfbnpsi})式の右辺では
大部分の$i$について$u_i=1,v_i=0$になっていて、乗積$\prod$の項数は実質
的には$\# {\rm basis}$より遥かに少なくてよいという状況が示唆される。し
たがって、準粒子による表現とは異なり、正準基底を用いれば、桁違いに少な
い一粒子状態でHFB解が記述できる可能性がある。論文\cite{RBR97}がこの効
用を見落としたのは、球対称性を仮定する場合には、正エネルギー状態数の膨
大さに起因する計算の困難が切実ではないためであろう。図
\ref{fig:tbandno}は、この二基底法と正準基底法との相違を図式的に説明し
たものである。

%---------- figure 2 --- begin ------------------------
\begin{figure}[bth]           % -*- psfig -*-
\vspace*{5cm}
\caption{HFB方程式の二つの解法 ---二基底法と正準基底法--- の相違。}
\label{fig:tbandno}
\end{figure}
%---------- figure 2 --- end --------------------------

そこで、我々は、この新しい効用の観点から、正準基底による解法の実用性を
検討し、球対称性を仮定しない場合の計算に必要な変更点を調べることにした。
そのために3次元正方メッシュ表現によるHFコードおよび正準基底HFBコード
を全く新規に作成した。

正準基底表現では、一粒子ハミルトニアンが状態に依存性するようになる。こ
のため下記の2つの重要な影響が生じる。

\vspace*{2mm}
\noindent
(1)最急降下法による変分の各ステップ毎に一粒子状態間の直交性を保つため
の工夫が必要になる。この拘束条件付変分の為に我々は論文\cite{RBR97}と同
様にLagrange乗数を変分空間での汎関数として陽に与える方法を採用し、その
精度や論文\cite{RBR97}で取り入れられていなかった項の効果を調べた。

\vspace*{2mm}
\noindent
(2) 素朴な最急降下法を用いると、HFB解への収束がHF法に較べて桁違いに遅
くなることが判明した。我々はこの原因が一粒子状態によって緩和時間が数桁
も異なるためであることを見出し、緩和時間を均すように各一粒子波動関数を
尺度変換することで収束を劇的に加速することができた。

\vspace*{2mm}これらの工夫により、正準基底HFB法は、実用的で有望な手法に
なりうるという展望が開けた。さらに、中性子過剰核を平均場法で扱うための
標準的な手法になるであろうとの期待をいだかせる。本論文の詳細は、会議報
告の一部分\cite{Taj98a}として出版される予定である。

% \hspace*{2cm}

\begin{thebibliography}{99}
{\small
\baselineskip=0.5cm
\bibitem{DNW96} % HFB ...  for drip-line nuclei: pairing and continuum effects
         J.~Dobaczewski, W.~Nazarewicz, T.R.~Werner, J.F.~Berger et al.,
         Phys.\ Rev.\ {\bf C53} (1996) 2809.
\bibitem{DFT84} % HFB description of neutron drip line, SkP force
         J.~Dobaczewski, Flocard and Treiner,
         Nucl.\ Phys.\ {\bf A422} (1984) 103.
\bibitem{DG80} % Gogny D1 force
         J.~Decharg\'{e} and D.~Gogny,
         Phys. Rev. {\bf C21} (1980) 1568.
\bibitem{GBD94} % Two-basis HFB (Superdeformed bands in Hg:a cranked HFB study)
         B.~Gall, P.~Bonche, J.~Dobaczewski, H.~Flocard, and P.-H.~Heenen,
         Z.\ Phys.\ {\bf A348} (1994) 183.
\bibitem{THF96} % 3D solution to HFB for drip line nuclei
         J.~Terasaki, Heenen, Flocard and Bonche,
         Nucl.\ Phys.\ {\bf A600} (1996) 371.
\bibitem{TFH97} % 3D HFB for Mg isotopes
         J.~Terasaki, Flocard, Heenen and Bonche,
         Nucl.\ Phys.\ {\bf A621} (1997) 706.
\bibitem{BFH85}  % Self consistent study of triaxial deformations
         P.~Bonche, H.~Flocard, P.-H.~Heenen, S.J.~Krieger, and M.S.~Weiss,
         Nucl.\ Phys.\ {\bf A443} (1985) 39.
\bibitem{TOT94} % nmbcs
         S.~Takahara, N.~Onishi, and N.~Tajima,
         Phys.\ Lett.\ {\bf B331} (1994) 261.
\bibitem{RBR97} % An HFB scheme in natural orbitals
         P.-G.~Reinhard, Bender, Rutz and Maruhn,
         Z.\ Phys.\ {\bf A358} (1997) 277.
\bibitem{Taj98a} % Hartree-Fock-Bogoliubov for deformed neutron-rich nuclei
        N.~Tajima, to appear in
        proc. XVII RCNP Int. Sym. on Innovative Computational Methods
        in Nuclear Many-Body Problems, Osaka, 1997.
}
\end{thebibliography}

\end{document}