日本物理学会 秋の分科会 (島根) 1999年9月23日〜26日 日本物理学会講演概要集 第54巻第2号 第1分冊 p.24 論文執筆時間確保のため講演を取り消したが概要集には原稿が載っている。 数式のみ latex 形式で記述してある。 講演番号 23aSH-1 題目 座標表示HFB法による中性子過剰核の対相関 講演者 田嶋直樹 title Pairing in neutron-rich nuclei with a coordinate-space HFB speaker Naoki TAJIMA Fukui University, Dept. Applied Physics 中性子のフェルミ準位が高い(例えば $\lambda_{\rm n}$ $>$ $- \frac{1}{2}\hbar \omega$ 〜3MeV (中重核))核では、中性子の対相関によって基底状態の波動関数に連 続状態の成分が混ざる効果が核の諸性質に大きな影響を与えると予想される。 前回までの何回かの発表でその詳細を報告してきたHFB正準基底によるHFBの解 法によってこの効果を正確に取り入れることができるようになった。今回はこ の手法で実際の中性子過剰核の性質がいかに計算されるかを報告する。 HFBの解法としては、調和振動子の配位空間での対角化が最も簡便であるが、 中性子ドリップ線付近の核に特有な広くひろがった密度分布を扱うには座標空 間での解法が必要である。 文献[DFT81] では準粒子状態の座標空間での波動関数を用いてHFB解を表す方法: \begin{eqnarray} |\psi \rangle & = & \prod_{i=1}^{\# {\rm basis}} b_i | 0 \rangle, \nonumber \\ b_i & = & \sum_{s} \int d \vec{r} \left\{ \phi_i^{\ast} (\vec{r},s) \; a_{s}(\vec{r}) + \psi_i (\vec{r},s) \; a^{\dagger}_{s}(\vec{r}) \right\} \;\;\; \mbox{ : 準粒子状態}, \nonumber \end{eqnarray} を導入し、それを球形核に適用した。 その変形核への適用は準粒子状態数の膨大さのために難しい。一方、 Bloch-Messiah定理により上記の解はBCS変分関数の形にも表すことができる。 \begin{eqnarray} |\psi \rangle & = & \prod_{i=1}^{K} \left( u_i + v_i \; a^{\dagger}_{i} \; a^{\dagger}_{\bar{\imath}} \right) | 0 \rangle, \;\;\; K= (\# {\rm basis})/2, \nonumber \\ a^{\dagger}_i & = & \sum_{s} \int d \vec{r} \; \psi_{i} (\vec{r},s) \; a^{\dagger}_{s}(\vec{r}) \;\;\; \mbox{ : HFB 正準基底}, \nonumber \end{eqnarray} この表現による解法は文献[RBR97]で導入され球形核に適用された。 我々はこれを変形核に適用可能にした[Taj98]。我々の手法の 特徴を下記に箇条書きする。 i) 「変形」と「連続状態の対相関」とを共に扱える新しい手法である。 ii) 調和振動子などの基底関数による展開によらず3次元正方メッシュによっ て波動関数を表すので変形やハロー発生に合わせた基底の最適化という微妙な 調整操作が不要である。 iii) 必要な一体波動関数の数は、準粒子による表現では規格化箱の体積に 比例するのに対し、正準基底による解の表現では核の体積に比例するので計算 量が数十分の一に軽減できる。 iv) 波動関数のスケーリングによるグラジエント法の加速と、それに適応した 直交性拘束条件のためのラグランジュ乗数の汎関数形を見出した。 v) ゼロレンジ力を用いる場合、正準基底数の制限はカットオフの完全な代用 にならないことを見出した。高エネルギーの正準基底状態の波動関数が点状に 収縮して対相関エネルギーの発散が起きうるのである。最善の回避策として対 相関密度依存相互作用の導入を提案した。 [DFT81] J. Dobaczewski, H. Flocard and J. Treiner, Nucl. Phys. A422 (1984) 103. [RBR97] P.-G. Reinhard, M. Bender, K. Rutz, and J.A. Maruhn, Z. Phys. A358 (1997) 277. [Taj98] N. Tajima, proc. Innovative Computational Methods in Nuclear Many-Body Problems (Osaka, Nov. 1997), ed. Horiuchi et al., World Scientific (1998) 343-351