日本物理学会 年会 (東邦大学、日本大学) 1998年3月30日〜4月2日
日本物理学会講演概要集 第53巻 第1号 第1分冊  (ISSN 1342-8349) p.34

講演番号 31aF-8
題目     座標表示HFB方程式の正準基底での解法
講演者   東京大学 大学院総合文化研究科 相関基礎科学系 田嶋 直樹

存在可能な核種の数は9000個近くあると予想されているが、そのうち、現在ま
でに実験的に確認されたものは2000個あまりにすぎない。核図表($N$-$Z$ 平
面)上では、中性子過剰核の領域が未知の領域として大きく広がっている。こ
の領域の核の諸性質を知ることは、宇宙における元素合成などの重要課題の理
解に不可欠である。 しかし、質量数が 100 程度以上の中性子ドリップ線付近
の不安定核に関しては、将来の大規模不安定核ビーム施設をもってしても、そ
の生成・観測は困難であり、今後も平均場近似を筆頭とする理論的計算が頼り
であると考えられる。

中性子過剰核の扱いに関する深刻な問題に、中性子対相関への連続状態の寄与
を正しく取り入れることの難しさがある。これらの核では、中性子のフェルミ
準位が上昇し 0に近づくので、対散乱過程によって中性子クーパー対が正エネ
ルギーの軌道へ励起されやすくなり、そのために対相関が強くなる。その影響
は、中性子ドリップ線の位置を変えうるほど強いと予想されている。

このような対相関チャンネルでの連続状態との結合を正当に取り扱うには、平均
場と対相関場とを同等に扱うHartree-Fock-Bogoliubov(HFB)法を用いる必要があ
る。しかし、HFB法には、フェルミ準位をλとして$-$λ以上の励起エネルギー
を持つ準粒子状態が粒子・空孔を問わず連続スペクトルをなすため、密度行列
を求めるのに膨大な計算量を必要とする(和をとるべき一準粒子状態が極端に
多い)という困難があり、その効率的な解法が必要とされている。

97年年会(於名城大学)では、Hartree-Fock(HF)解の一粒子状態で基底を張り行
列操作によってHFB法を解くという「二基底法」を検討した。正エネルギーの
HF一体状態は箱全体に広がっているが、HFBの一準粒子状態の占拠成分波動関
数は原子核の周りに局在しているため、HFの一体状態でHFBの一準粒子状態
を展開することは効率的でなく、非常に小さなスペースしか対相関に取り入れ
られないという結論を得た。

今回は、HFB解を、局在した一粒子状態である正準基底を用いて表すことで、
HFB解の記述に必要な一粒子状態数を飛躍的に少なくする方法について検討す
る。まず、単純化された相互作用(密度依存接触力:Skyrm力の$t_0$項と$t_3$
項)を用い、この方法の3次元メッシュ表現への応用可能性をテストする。正
準基底表現の採用に起因する「一粒子ハミルトニアンの状態依存性」の取扱方法
について考察し、収束速度の改善策に結びつけて議論する。