日本物理学会 秋の分科会 (愛媛大学) 1988年10月3日〜6日 講演概要

講演番号 6aF-6
題目    高Kアイソマーの崩壊に見る核変形のガンマ自由度 II
講演者  東大教養  田嶋直樹・大西直毅

 非軸対称変形の自由度(γ)を取り扱うモデルには、Bohr 流の軸対称な変
形のまわりの揺動・振動という描像に基付くγ振動模型と、Davydov 流の静的
変形描像に基付く非軸対称回転子模型とがある。後者の静的γ変形の描像は、
量子的揺動のため(低スピンの)原子核ではまず成立しないと思われる。しか
し両模型は、集団的な量については良く似た結果を与える。これは、これらの
量はγの平均値で決まってしまい、そのまわりの揺動の大きさ等には依らない
為だと考えられる。従って静的変形の大きさを調節してやれば、非軸対称回転
子模型でもγ振動模型と同様な結果を得ることができる訳である。両模型の区
別に関する議論の多くは、動的なγ振動模型を使って初めて、状態によるγの
平均値の変化を導入できる点に依拠するものが多い。もし直接にγの揺動を見
ることのできる量があれば、大変意義のあることと思われる。

 我々はKアイソマーの崩壊に伴うK選択則の破れの程度から(集団的な量か
ら求めたγの平均値を援用して)γの揺らぎの大きさを知ることが出来ること
を示した。粒子・回転子模型の回転子の部分に上記の2つの模型を使って、
182Wおよび184Osに見られる比較的短寿命のKアイソマーの崩壊の再現を試
みたところ、図のように、γ振動模型で計算した半減期は、非軸対称回転子模
型によるものより、約2桁短いことが判った。実験値はこの両模型の結果の間
に位置し、182Wは振動模型的だが、184Osでは、かなり非軸対称回転子的な
性格を持つことがわかる。今回はこの両模型間の差がγの揺動によるものかど
うかを良く調べ、また、2つの核の違いの原因を、殻の詰まりによる自由度の
減少などと関連させて議論したい。