日本物理学会 第55回年次大会 (新潟大学) 2000年9月22日〜25日
日本物理学会講演概要集 第55巻第2号 第1分冊  p.35

講演番号  25aTC-12
題目      ニルソン模型でみる原子核の偏長変形優勢の起源
講演者    福井大学 工学部 物理工学科 田嶋直樹、鈴木紀史

title     Origin of the prolate dominance of atomic
          nuclei studied with the Nilsson model
speakers  Naoki TAJIMA, Norifumi Suzuki
          Fukui University, Dept. Applied Physics

  原子核が基底状態において扁平(oblate)でなく偏長(prolate)変形する傾向
の原因としては、一体ポテンシャルの深さの動径依存性が調和振動子型より井
戸型に近いWoods-Saxon型であるためであるというFriskの説[Fri90]がある。

  一方、Skymre-Hartree-Fock+BCS法による偶々核の系統的な計算結果からは、
一体ポテンシャルがスピン軌道結合を持つことと偏長優勢との関連が示唆され
ている[TTO96]。

  今回、我々は、ニルソン模型 [BRA91] の軌道角運動量の2乗に比例するポ
テンシャルの強さと、スピン軌道結合ポテンシャルの強さを人為的に変えるこ
とで、偏長核の割合【脚注1】がどう変わるかを調べた。結果を図1に示すが、
両ポテンシャルの効果はともに強く、その効果に強い干渉があることが分る。
このほか、十六重極変形の効果、対相関の効果についても計算した。



            【図のファイルは準備できていません】

図1:$l^2$ および$ls$ポテンシャルの減衰因子 $f_{ll}$と$f_{ls}$の
     関数としての偏長解の割合 $R_{\rm p}$。


[Fri90]
         Hans Frisk,
         ``Shell Structure in Terms of Periodic Orbits'',
         Nuclear Physics, A511 (1990) 309-323.

[TTO96] 
      N. Tajima, S. Takahara and N. Onishi, 
      ``Extensive Hartree-Fock+BCS Calculation with Skyrme SIII Force'',
      Nuclear Physics A603 (1996) 23.

      この論文では、N < 40 または Z < 40 の、主殻が調和振動子型
      である核では、偏長解と扁平解のエネルギー差が正・負等しく分
      布するのに対し、N > 50 または Z > 50 の主殻が Mayer-Jensen型
      の場合には、偏長解が扁平解より明確に低いエネルギーを持つこと
      が示された。Mayer-Jensen型の主殻の特徴は、高 j 軌道がスピン軌
      道ポテンシャルによって一つ上の(偶奇性を異とする)調和振動子主殻
      から降りて来ることである。

[BRA91]
         T.~Bengtsson, I.~Ragnarsson and S.~{\AA}berg,
         ``The Carnked Nilsson Model'',
         in ``Computational Nuclear Physics 1'',
         ed. K.~Langanke, J.A.~Maruhn and S.E.~Koonin,
         (Springer-Verlag, Berlin, 1991) 51:
         計算で用いたプログラムは、このNICRAの系統のものであるが、
         九州大学の清水良文氏によって変形が軸対象で角速度が零の場合に
         特化させて書き直されたため、非常に高速である。

【脚注1】
図1に示した $R_{\rm p}$の意味を正確に言うと、2千個あまりある偶偶核
のうち、扁平ミニマムと偏長ミニマムの両方を持つ核の中で、偏長ミニマムの
方がエネルギーが低い核の割合である。