高スピン核での陽子・中性子間相互作用の効果
               東大教養 田嶋 直樹

 Effects of Proton-Neutron Interaction in High-Spin Nuclei
                      Naoki Tajima
    Institute of Physics, College of General Education,
                   University of Tokyo

abstract: The high-spin isomer in 182Os and its characteristic
decay pattern are reproduced in the framework of a particle-
rotor model in which protons as well as neutrons in intruder
orbitals are involved. The isomer is realized as the bandhead
of a two-proton-two-neutron-aligned band in the present
calculation.

§1 序論

 変形核の角運動量が増大して、回転整列した核子の数が多くなると、それら
の間の残留相互作用が核の構造に無視できない影響を及ぼす可能性がある。同
種核子間の相互作用が2核子の角運動量を0に組ませる対相関的傾向を持つの
に対し、異種核子間のそれは、少なくとも intruder 軌道では、逆に、2核子
の角運動量を整列させる傾向の方が強い1)。これは、異種核子間相互作用が
(内部)スピン三重項で強い引力であるためである。(Intruder 軌道では、
(内部)スピンが並行であることは全角運動量の整列を意味する。) 従って、
角運動量をほぼ整列させた離対核子間の相互作用としては、特に、陽子・中性
子間のものが重要である。

§2 182Os の高スピン・アイソマーの特徴

 陽子・中性子間相互作用が重要な働きをしていると考えられる実験事実の一
つに、最近182Os に発見された特異な崩壊の型を示す高スピン・アイソマー
がある2)3)。このアイソマーは、(20±2)�△離好團鵑鮖�っていると推定され、 
100 ns の半減期で崩壊した後、約 90 % が第一後方歪曲前後(I= 10�◆�
18�◆砲離ぅ薀好函Ε丱鵐鼻複鵐丱鵐鼻砲両�態に脱励起する。近傍のHfなど
の核に多く見られる high-Kアイソマー的構造を持つならば、sバンドのよう
にK量子数の期待値が小さいバンドへの遷移は、K選択則によって妨げられる
はずであるから、アイソマー自体も回転整列バンド的な構造を持っていると予
想される。そこで我々は、このアイソマーは2陽子・2中性子が回転整列した
バンドのバンド・ヘッドであろうと考えた。陽子・中性子間相互作用を考慮す
ると陽子と中性子のスピンが整列した配位はエネルギー的に優遇されて他の配
位と混ざりにくくなり、そのため波動関数の重なりの小ささにより、バンド外
への遷移が阻害されると考えられるからである。

§3 模型

 この予想を確かめるため、粒子・回転子模型による数値計算を行った 4)。 
この模型は、高スピンでの粒子自由度として重要な high-j intruder 軌道
(ここでは陽子のh11/2軌道と中性子のi13/2軌道)の核子については(球対
称)殻模型で微視的に扱い 1)、残りの軌道の核子の自由度は集団模型(ここ
ではγ-soft Bohr 模型)で表そうとするものである。殻模型部分の粒子間相
互作用は ref 5) の方法で計算したものを用いた。芯のパラメタは低スピンの
エネルギー準位(g-band、γ-band)を再現するように決めた。

 芯と high-j 軌道の核子との間の相互作用はQ・Q相互作用を採用した。こ
れは芯の変形ポテンシャルの効果を表したものである。結合定数は yrast 準
位の第一後方歪曲の位置が合うように決めた。芯と high-j 軌道の間の核子の
交換は無視した。

 なお、high-j 軌道の核子数は、Nilsson 準位からは π(h11/2)10 、ν
(i13/2)8 であるが、yrast 準位の再現に困難があったので、共に2個ずつ
減らした。本研究会発表後の計算によると、これは Cooper 対交換の相互作用
を取り入れることで克服できる。

 パラメータの値や、状態空間の切断の方法は ref 4) に記したとおりである。

§4  数値計算の結果

 図1に計算結果のエネルギー準位を示した。芯の変形をβ= 0.16 として E2 
遷移を計算したところ、2陽子・2中性子整列状態の中で最もエネルギーが低
いバンド(図中の ○−−−○)の先端付近の状態は、予想どおり寿命が長く
なった。ただし、先頭の 20+ の状態の半減期は80 ps で、(同程度の励起エ
ネルギーを持つ2粒子整列状態に較べれば 2 〜 3 桁長い寿命である) むし
ろ 21+ 状態の方が 2.7 ns と長い。(21+ から 20+ へのバンド内遷移はエネ
ルギー差が小さいために強くない。) これは、このバンドの 20+ 状態が、
偶然エネルギー準位が近い所にある2核子回転整列状態との間で、波動関数の
混合を起こしたためであると考えられる。

 計算値の 2.7 ns は、実験値の 100 ns に較べてかなり短い。この原因のひ
とつは、今回の計算ではイラスト付近の準位間隔が実験値に較べて大きいこと
である。また、もし上述の偶然縮退がなければ、20+ はもっと長い寿命を持つ
ことが予想される。

 図2には、21+ 状態からの(強度 1% 以上の)崩壊経路を実線で示した。図
1のようにsバンドに並行して走るsバンドに類似した2核子整列構造を持つ
バンドが多数あるが、崩壊経路はそれらの中を通りつつ漸次sバンドへ落ちる
形をとる。崩壊に伴うガンマ線は、強度 0.1% 以上のものが、イラスト内遷移
を除いて 43 本ある。(20+ からの場合は 76 本ある。) 実験ではアイソマー
の脱励起に帰せられるγ線が 100 〜 150 本も見つかっているが 6)、計算結
果はこの事実と定性的に一致している。

§5  結論

 1)2陽子・2中性子回転整列バンドの先端付近の状態が、陽子・中性子間
      相互作用によって   intruder 軌道配位の純粋性が保たれるため、
      バンド外への遷移が阻害されて、高励起であ るにも関らずアイソマー
      になる。

 2)sバンドに並行して走る多数のsバンド様のバンドがあり、アイソマー
      からの崩壊経路は   これらを通りつつ漸次sバンドへ落ちる形をとる。

 この報告は大西直毅氏との共同研究に基付くものである。なお、計算費の一
部は RCNP によって補助された。

References
1) 田嶋直樹,大西直毅,「高スピン核構造への微視的アプローチ」研究会報告,
   素粒子論研究 72 (1986) No.6, F52
2) J. Pedersen, et al., Phys. Rev. Lett. 54, 306 (1985)
3) J. Pedersen, et al., Z. Phys. A321, 567 (1985)
4) N. Tajima and N. Onishi, Phys. Lett. B179, 187 (1986)
5) N. Onishi and J. W. Negele, Nucl. Phys. A301, 336 (1978)
6) J. Pedersen, private communication