Signature dependence of energy levels
   and highly-excited γ-bands

          Naoki Tajima
      Institute of Physics,
 University of Tokyo, Komaba

「 エネルギー準位の指標依存性と高励起γバンド」
                        田嶋直樹 (東大教養)

 奇Z核 unique-parity バンドのエネルギー準位における指標量子数依存性
が、慣性能率の第一後方歪曲後、わずかだが逆転すること(指標逆転現象)が、
157Hoなど[2]、いくつかの希土類核に観測されている。ここで指標量子数と
は(クランキング描像で)回転軸のまわりの 180°の回転に対応する量子数で
ある。これらのバンドでは、対を組まない最後の1陽子が侵入軌道 h11/2 に
入っている。核全体の角運動量を I とし、j=11/2 とすると、I-j の偶奇性が
指標と1対1に対応する。I-j が偶数のバンドを f-バンド、奇数のバンドを 
u-バンドといい、通常は、前者のほうが後者よりエネルギーが低い。この順序
の逆転は、核が回転軸方向に押しつぶされるような「正γ変形」(Lund 表記 
による)のもとで起こると予想されている[3,4,5]。

 図1に示したように、回転整列は「正γ」を誘起するが、通常仮定される渦
無し集団回転は「負γ」を好むという相反する効果を持つ。以前、浜本は、芯
の偏極を媒介としない、陽子・中性子間の直接のQπ・Qν引力による指標逆
転の可能性を調べ、否定的な結果を得た[6]。また最近、池田と島野は、粒子・
回転子模型を、

  (0+2)中性子準粒子状態×1陽子準粒子状態×(K=01+K=21)芯状態  (1)
    ○          ○               ○      ○

の空間で解き、157Hoのエネルギー準位を計算した[7]。彼らは、指標逆転現
象を再現するために、慣性能率のγ依存性を渦無し流体模型のものとは正反対
に設定した(1軸のまわりの慣性能率と2軸のまわりのそれを取り替えた)。図
1で説明すると、回転整列の効果は、集団的回転の効果に劣るので、後者の作
用を逆転させた(図中の点線)のである。

 なお、彼らは静的な非軸対称変形でなく、γ振動を考えることが重要である
と述べているが [8]、非軸対称回転子模型とγ振動模型とは、基底回転帯と第
一γ回転帯の張る (1) 式の空間内では、ほとんど区別できない[9,10](図2
参照)。非軸対称回転子模型は、γ振動模型に対する扱い易い近似とみるのが
良いと思う。今回、我々は、非軸対称回転子模型を用いた。これは、芯がγ-
soft な場合、粒子との結合による芯の状態の混合が非常に強く、取り入れる
べき状態空間がきわめて巨大になるためである。一方、変形が固い場合は、芯
の励起状態が少なく、考慮すべき状態空間も比較的小さくて済む。γソフトな
場合の高励起γバンドの効果を調べることは今後の課題である。

 今回、我々は、より大規模な模型空間を考慮することで、浜本や池田・島野
の結果がどうなるかを確かめた。我々の模型は、内部座標系ではなく、実験室
系で記述された粒子・回転子模型である(図3参照)。高スピンで独立粒子自
由度として重要な侵入軌道の陽子(π)、中性子(ν)については、各々 
h11/2 及び i13/2 軌道の(球対称な)single-j 殻模型で微視的に扱い、その
他の軌動にある核子については、集団運動のみを行うと仮定して、なんらかの
集団模型(芯と呼ぶ)で置き換える[9,11]。侵入軌道は unique parity であ
るため他の軌道と混合しないので、この分離が可能になる。

 γの値は、隣接する偶々核の最低励起γ-band の band head のエネルギー
を再現するように 15 °に決めた。ただし、同じγ励起エネルギーを与えても、
γ振動模型では非軸対称回転子模型のときよりも Δν=±2 四重極遷移が強
くなる。従って、このγの値は157Hoには若干小さいかも知れない。

 以前、我々は、182Os核の高スピン・アイソマー状態に於ける中性子・陽
子間相互作用の効果を見るために、同じ模型を用いて計算を行った[11]。そこ
での状態空間の切断方法は、まず[中性子×陽子]系を対角化した後、その固
有状態から各スピンに付き yrast 付近の数個の状態を選び出して、これらと
芯とを結合させるというものであった(図4左側)。この方法は、異種核子間
の相互作用のほうが、芯と個々の核子との相互作用(主に変形した一体ポテン
シャルの効果)よりも強い場合に適していると思われる。

 今回の計算は、粒子を probe として芯の変形を調べることが目的であるか
ら、粒子・芯間の(ニルソン殻構造に相当する)相関を、より正確に取り入れ
る必要がある。従って図4右側のような切断方法を用いた。閉曲線でくくった
系の固有状態のうちエネルギーの高いものを取り除くのだが、結果としてえら
れる全系のエネルギー固有値がこの空間切断にたいして収束することは確かめ
てある。約3万次元で十分に収束させることができた。

 計算結果は ref. [1] にすでにのせたので、ここには掲載しないが、その結
論を以下にまとめる。

 157Hoに見られる第一後方歪曲直後のエネルギー準位の指標逆転現象の粒
子・回転子模型による再現は、

1)通常の強さの陽子・中性子間相互作用では不可能である。

2)慣性能率のγ依存性を渦なし流体模型のものにとると不可能である。高励
起γ(K ≧ 4)バンドとの結合は重要ではない。ただし、γ自由度を、Davydov 
模型を使って靜的に導入した場合のみを調べた。

3)そこで、慣性能率のγ依存性を逆転させてみたところ、「芯×中性子」系
の状態を基底および第一γバンドだけしか取り入れないときには、池田・島野
の結果と同様に指標逆転現象が再現された。しかし、K=4 のγバンドとの間
に存在する多数の準粒子励起状態をも取り入れると、正常指標依存状態に戻っ
てしまった。(K=4 のγバンドまでいれても変化はみられない。)

 結果3は、図5の如く、理解できる。即ち、芯の慣性能率は人為的にγ依存
性を逆転させ得るが、侵入軌道の陽子・中性子の(配位混合による相関を取り
入れた)微視的な慣性能率は、通常の渦無し流体運動的なγ依存性をもってし
まう。侵入軌道は角運動量が大きいため、その慣性能率は、芯のそれより大き
い。従って、2軸のまわりに回ろうとする芯の傾向は、1軸の回りに回ろうと
する侵入軌道粒子の傾向に負けてしまう。

 微視的に計算した 2j 系の慣性能率が正常γ依存性を示すとすれば、芯にγ
逆転した慣性能率を設定することは、かなり無理があるように思われる。しか
し、normal parity 軌道においては複雑な軌道の混合があり、これが大きな殻
効果をもたらす可能性は否定できない。微視的な「芯」の研究が今後望まれる。

参考文献
[ 1] N. Tajima and N. Onishi, RCNP-P-104 (1989) 28.
[ 2] G.B. Hagemann, et al., Nucl. Phys. A424 (1984) 365.
[ 3] S. Frauendorf and F.R. May, Phys. Lett. B125 (1983) 245.
[ 4] R. Bengtsson, et al., Nucl. Phys. A415 (1984) 189.
[ 5] N. Onishi and N. Tajima, Prog. Theor. Phys. 80 (1988) 130.
[ 6] I. Hamamoto, Phys. Lett. B179 (1986) 327.
[ 7] A. Ikeda and T. Shimano, preprint;
[ 8] A. Ikeda and T. Shimano, their talk in this work shop.
[ 9] N. Tajima and N. Onishi, Nucl. Phys. A491 (1989) 179.
[10] N. Tajima, Ph. D. Thesis, Univ. of Tokyo (1989).
[11] N. Tajima and N. Onishi, Phys. Lett. B179 (1986) 187.